人間国宝、岩野市兵衛!!今立で静かに暮らす和紙の原点_02

ことことことこと…。(静かに桁をゆすりながら紙を漉く。)

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市兵衛: 「うら」名人や名人やって言われるけど、そんなことは無いんでね…。

ミチ:  えっ、なんですか急に。
市兵衛さんが名人でなかったらどなたが名人なんや?!っていう話になりますよ!…。なんといっても「人間国宝」じゃあないですか?

市兵衛: いやね、ぼくなんか昔からやってたことをそのままやってるだけでね、いわゆる「自分の技(わざ)」みたいなのではないじゃないですか?手間はかかっても同じことをず〜っとやってるだけですから。(…とは言いつつも静かに正確なリズムを刻みながら桁を動かし続ける。)

ミチ:  ……。(これが自然体…?と思いつつ)

市兵衛: 「人間国宝」になれたのも、「うら」のおやじが“ちょっと頑張りすぎた”ってだけで、いや八代目市兵衛のぼくの父親が、人間国宝をとったんですわ。で、その父親が死んで、まあぼくがその名前を継いでやってった方が、うちも商売ですから色々やりやすいだろうという話になりまして…、

ミチ:  岩野さんの元々のお名前って何だったんですか?

市兵衛: ぼくは「市郎」(いちろう)だったんです。いや−、名前を変えるのも結構大変でね、裁判所やら何やらに行って、たしか何年かかかったんでなかったかの。同じ名前で字も同じでしょ、なんか色々ややこしいみたいで大変やったんですわね。

ミチ:  はぁ〜…。(豪快なまでの“肩の力の抜けっぷり”に拍子抜け…。)

市兵衛: そういえば名刺をまだ渡してなかったの、ちょっと待ってくんね。(と言ってそそくさと自宅から名刺を持って来てくれた。)

市兵衛: はい。

ミチ:  わぁ〜、ありがとうございます。あ〜、すごいですね…。なんかやっぱり“次元が違う”って感じがしますね。ぼく、これ宝物にしますわ、岩野さん。

市兵衛: また、そんなおおげさな…。

ミチ:  いや、ほんとに「値打ちがある」って感じがしますもん。記念に名刺と一緒にパシッ!とな…、

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無茶な構図…。

ミチ:  あの−、おそるおそる聞くんですけど、岩野平三郎さん(県無形文化財)と比べられたりすることってあるんですか?

市兵衛: ん?!う−−ん。いや、平三郎さんとこは大きいですし…、色々な技があって、色んな種類の紙を漉いてなはって、「しょっこさん」(ひらたく言えば従業員さん)もたくさんいなるでしょう。うちみたいに家族でやってるのと規模が違うでないですか。なので比較されると言ってもあまりピンと来んのですわ。

ミチ:  へ−、そういうもんですかね。

市兵衛: それと、一つのことだけをず〜ッとやってるって言う風な、ぼくなんか、越前生漉奉書(えちぜんきずきほうしょ)でしょ、そういうなんが人間国宝にはなりやすいみたいですわ。

ミチ:  む〜、なるほど。

市兵衛: もともとわが家は、古くさかのぼれば平三郎さんところからの分家ですから。

ミチ:  あ、そうなんですか。

市兵衛: で、うちの立地がここらで一番、上(かみ、川の上流の意)やったもので昔からの紙漉きのやり方をするのに向いてたんやと思います。

ミチ:  あの〜、岩野さんすごく元気な感じなんですけど、一体おいくつなんですか?

市兵衛: ぼくは昭和8年9月28日生まれで今年71歳です。
小学校5年生のとき終戦になりまして、父の8代目市兵衛はシベリアに抑留されてたんですが、昭和22年に帰って来まして、そしてしばらくして朝鮮動乱、いわゆる朝鮮戦争になったんです。その時の進駐軍に日本のみやげとして浮世絵がものすごく好まれまして、昭和25〜26年あたりは、うちもほんっとに忙しくてかなわんかったんです。実はぼくは版画の彫刻師になりたかったんです。

といっても手先が器用とかそういうわけでなくて、刃物を研ぐのがなぜだか好きでね、今でもうちの包丁やらなんやらはぼくが研いでるんですわ。

ミチ:  は〜〜。でもなんと言うか、生まれた時からずっと紙を漉くってことで家を継ぐのが決まってらしたわけなんでしょう?
やっぱりそういうことに対するわだかまりみたいなのがあったんですか?

市兵衛: いやね、そりゃ今の時代だったら“東京行ってどうのこうの”って考えたんかもしれんけど、とにかくその時は家の紙漉きが忙しくてね、必死に家の仕事してたらいつの間にか年をとって、そうこうしてるうちに結婚して気がついたら父親が死んで、人間国宝になってそれで今に至るというそんな感じですわ…。

あ、うちの嫁ね、ま、わたくしの奥さんなんですけど、自分で言うのもなんなんですけど、結構たいしたものなんですわ。「にがうり」ってあるでしょ?!

ミチ:  ゴーヤですか?

市兵衛: そう!それっ!!ゴーヤやわ。それのてんぷらをこの前あいつがしたんですけど、その“ころも”の中に干しぶどうを入れるんですわ。
これがの〜、うまいんやって!ほんとうに美味しいんですわ。

にがいんやけど、にがいだけでないんやね。ちょこっ、ちょこっ、と甘味があるんですわ、干しぶどうの。な〜んであんなのを考え付くんかと思っての〜。ほんっとにおいしかったんですわ。

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スマイリー岩野孝子さん(奥様)

ミチ:  はぁ〜〜…。

市兵衛: 料理もそうやし、あの人はたしか40過ぎてから車の免許取りにいったんですわ。仕事しながら自分でバイクん乗っての〜、なんてゆうか馬力があるっていうんですかね〜。たいしたもんですわ。

“梅味噌”っていっての〜、梅を味噌に付けこんでおいたのを今で言うドレッシングにするんやね、それを炒めもんなんかに混ぜるんですけど、これがまた絶品なんですわ。なんであんな美味しいんかな〜と思ってのう。

ミチ:  ほ〜う、うまそうですね〜。それって僕にちょっとだけわけてもらえたりするんですかね。

市兵衛: あ、どうぞ、どうぞ。

ミチ:  いいんですか?じゃ、あとで奥さんに頼んでみます。

つづく

2004年10月22日 | ひと系

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